Samsung Wallet が USDC 送金に Solana と Sui を採用|なぜ EVM ではないのか
目次
「Galaxy のウォレットでドルを送れるらしい」という話が、2026 年 10 月 7 日の発表から一気に広がりました。自分の Galaxy でも使えるのか、本当に無料なのか、なぜ Ethereum 系ではないのか。発表の原文と各社の公式ページに当たって、わかったことと、わからなかったことを分けて整理しました。
結論:対象は米国の Galaxy だけ。Samsung 自身は、チェーンを選んだ理由を語っていない
Samsung Wallet の USDC 送金は 2026 年 10 月の最終週に米国で始まり、基盤は Solana と Sui です。 資産の保管は Bastion と Coinbase が担います。日本の Galaxy で使える予定は、発表のどこにも書かれていません。
Solana と Sui を選んだ理由は、Samsung のリリースには出てきません。Sui が自社ブログで速さ・安さ・ガスレスを挙げているだけで、Ethereum 系(EVM。Ethereum と同じ仕組みで動くチェーンの総称)を外した理由は、どの発表にも書かれていません。だから後半の「なぜ EVM ではないのか」は、公開されている数字を並べたうえでの推測として書きます。推測と事実は、見出しで分けました。
発表で確定していること
公表は Solana Foundation が 10 月 7 日、Samsung Mobile Press が 10 月 8 日(いずれも米国時間)でした。ここでは Samsung の原文から確定している事実だけを並べます。
8,200 万台
対象の Galaxy 端末
米国内で互換性のある台数
60 か国超
銀行口座宛ての送金先
現地通貨で受け取れる場合がある
0 ドル
外部ウォレット宛ての手数料
Samsung 側は取らない
10 月最終週
開始時期
2026 年・米国のみ

出典: Samsung Mobile Press(2026-10-09 時点の画面)
使える人の条件は、米国居住・18 歳以上・Samsung Account・Android 13 以上・本人確認・登録済み端末での生体認証です。最初に扱うステーブルコインは USDC だけ。送金先は「外部ウォレット」と「60 か国超の銀行口座」の 2 系統があります。
登場する会社の役割は、ここで押さえておくとあとの話が早いです。
| 役割 | 会社 | 発表での扱い |
|---|---|---|
| アプリ | Samsung Electronics America | 銀行でも送金業者でもカストディアンでもない、と明記 |
| 保管・送金の仕組み | Bastion | ニューヨーク州の信託免許を持つステーブルコインのカストディアン |
| 副カストディアン | Coinbase(Coinbase Prime Vault) | 資産の保管を分担 |
| ブロックチェーン | Solana・Sui | 「必要な技術力を持つ別のパートナー」として名前が出る |
出典: 同上(Samsung Mobile Press)
意外だったのは、USDC の発行元である Circle の名前がリリースに無いことです。USDC のニュースなので Circle が出てくると思い込みがちですが、原文には出てきません。発表にない会社を主役にしないほうが、ニュースの読み方としては安全です。
「手数料無料」は外部ウォレット宛てだけ
見出しが独り歩きしやすいのが手数料です。原文は送金先によって書き分けています。
Samsung does not charge a fee for USDC transfers to external wallets; recipient wallet providers or exchanges may impose their own fees.
訳: 外部ウォレットへの USDC 送金に Samsung は手数料を取らない。受け取り側のウォレットや取引所が独自に手数料を取る場合はある。
Fees apply, vary by destination country and amount, and are shown in the app…
訳: 手数料はかかる。送金先の国と金額で変わり、アプリに表示される。
出典: Samsung Mobile Press(2026 年 10 月 8 日)
外部ウォレット宛て
- Samsung の手数料0 ドル
- 受け取り側ウォレットや取引所が手数料を取ることがある
- 相手に必要なものUSDC を受け取れるウォレット
- いちばん近い使い方暗号資産に慣れた相手への送金
銀行口座宛て
- Samsung の手数料かかる(国と金額で変わる)
- 受け取り側現地通貨で受け取れる場合がある
- 相手に必要なもの対象国の銀行口座
- いちばん近い使い方家族への仕送り・海外の相手への支払い
つまり、家族への仕送りのような「銀行口座に現地通貨で届けたい」送金は有料です。無料なのは、相手も USDC をウォレットで受け取れる場合だけ。この区別を落とすと、ニュースの意味がだいぶ変わってしまいます。日本国内の相手にお金を送るだけなら、個人間送金の比較で書いたとおり、同じコード決済アプリ同士がいちばん安上がりだったりします。
注意
米国以外への展開時期は未定です。Samsung のリリース自身が「各国の規制の進展に合わせて、他の市場へ広げる可能性がある」と書いているだけで、国も時期も出ていません。日本の Galaxy で同じ機能が使えるという情報は、2026 年 10 月 9 日時点ではありません。
公式が語ったこと、語っていないこと
Solana と Sui について、公式が言ったことは驚くほど少ないです。Samsung のリリースでチェーンに触れた文は 1 つだけ。
…infrastructure and blockchain network support — will be provided by separate partners with the required technical capabilities, including Solana and Sui.
訳: 基盤とブロックチェーンのネットワーク支援は、必要な技術力を持つ別のパートナー(Solana と Sui を含む)が提供する。
出典: Samsung Mobile Press(2026 年 10 月 8 日)
Solana 側の記事には、Samsung の Woncheol Chai 氏(EVP・デジタルウォレット担当)のコメントが載っています。趣旨は「従来の暗号資産の道具の複雑さを避けたい」「Solana のおかげで、この体験を Samsung の規模で届けられる」というもので、動機には触れていますが、技術的な比較はしていません(Solana Foundation・2026 年 10 月 7 日)。

出典: Solana Foundation(2026-10-09 時点の画面)
Sui 側はもう少し踏み込んでいます。自社ブログ(2026 年 10 月 8 日)の「Why USDC on Sui?」という項で、速く安く送れること、ガスレス送金で SUI トークンを持たなくても USDC を送れることを挙げています。2024 年にネイティブ USDC、その後 CCTP(Circle が用意した、チェーンをまたいで USDC を移す公式の仕組み)に対応したことも書いています。ただし、これは Sui 側の説明です。Samsung が同じ理由で選んだと、Samsung 自身が言ったわけではありません。

出典: Sui(2026-10-09 時点の画面)
語られていないことも書いておきます。Samsung 側の発表には、速度やファイナリティ、手数料を理由に挙げた文がありません。Sui の zkLogin やオブジェクトモデルを理由にした文は、どの発表にも見当たらないのが現状です。Samsung NEXT が Sui の開発元 Mysten Labs の 2021 年 12 月の資金調達に出資者として名を連ねている事実はあります(CoinDesk・2021 年 12 月 6 日)。ただ、今回の選定と結びつけた発言は、公式発表の中には出てきません。
なぜ EVM が選ばれなかったのか(ここからは推測)
Ethereum や Base、Polygon のような EVM 系のチェーンは、USDC の残高がいちばん多い場所です。それでも今回は入っていません。公開されている数字を並べると、理由の輪郭が見えてきます。表の L1 は土台のチェーン、L2 はその上で処理をまとめて速く安くする層のことです。
| チェーン | 方式 | 送金手数料の目安 | 確定までの時間 | USDC 残高 | CCTP V2 |
|---|---|---|---|---|---|
| Ethereum | EVM(L1) | ERC-20 送金 約 0.02〜0.03 ドル(10 月 8〜9 日) | 約 15 分 | 約 454 億ドル | 高速送金に対応 |
| Base | EVM(L2) | 公式の値を確認できず | 最終的に L1 を待つ(一般的な L2 の構造) | 約 44 億ドル | 高速送金に対応 |
| Solana | 独自 | 5,000 lamports/署名(0.000005 SOL。優先料は別) | 約 12.8 秒 | 約 68 億ドル | 高速送金に対応 |
| Sui | 独自(Move) | ステーブルコインの送金は 0 ドル | 約 0.4 秒 | 約 3 億ドル | 通常送金のみ(高速送金は N/A) |
出典: Etherscan Gas Tracker(2026 年 10 月 8〜9 日の「ERC20: Transfer」の値)、ethereum.org「Single slot finality」、Solana Docs「Transaction Fees」、Solana Docs「Transactions」(fee payer)、Solana「Alpenglow」、Sui「Builder's guide: settlement on Sui」、Sui「Sui launches gasless stablecoin transfers」(2026 年 5 月 20 日)、Circle「CCTP Supported Blockchains」。USDC 残高は DefiLlama の 2026 年 10 月 9 日取得値(総供給 約 732 億ドル)
ファイナリティとは
送金が「もう取り消されない」と確定するまでの時間のことです。画面に「完了」と出るタイミングと、ネットワーク上で本当に確定するタイミングは別で、その差がチェーンごとに大きく違います。
表の右端にある CCTP の高速送金は、Ethereum・Base・Solana が対応で、Sui は N/A です。Circle の注記によると、高速送金は通常送金より意味のある速さの差が出るチェーンだけに用意するもので、Sui は通常送金で十分速いという扱いです。つまり CCTP の対応度で優劣は付きません。残るのは、手数料・ガス用トークン・確定までの時間の 3 つ。順に見ていきます。
考えられる理由 1:手数料の安さは、決め手になりにくい
Ethereum の L1 ですら、2026 年 10 月 8〜9 日の ERC-20 送金は約 0.02〜0.03 ドル、円にして 3〜5 円でした。「EVM は高いから外した」という説明は、この数字では成り立ちにくいです。ガス代は日によって動くので幅は残りますが、手数料だけで EVM を外す理由は見つかりません。ここは正直、決め手を探しても見つからなかった部分です。
考えられる理由 2:ガス用トークンを扱わずに済む
EVM では、USDC を送るのに ETH などのガス用トークンが別に要ります。8,200 万台の Galaxy の持ち主に「送金の前に ETH を少し買ってください」とは言えません。
ただし、今回の仕組みは Bastion が資産を預かるカストディ型です。利用者が自分でガス代を払う場面は、そもそも無いのかもしれません。それでも、裏側で何万件もの送金を捌く側にとって、ガス用トークンの在庫を別に持たなくてよいチェーンと、持たなければならないチェーンでは運用の重さが違います。
EVM にも肩代わりの仕組みはあります。ERC-4337 のアカウント抽象化と paymaster を使えば、アプリ側がガス代を負担できます(ethereum.org「Account abstraction」)。ただし、それは通常の送金の上に載せる追加の層です。
| チェーン | 誰がガスを払うか | 利用者が USDC 以外を持つ必要 |
|---|---|---|
| Ethereum・Base(EVM) | 送信者が ETH で払う。ERC-4337 + paymaster でアプリが肩代わりできる | 肩代わりが無ければ ETH が要る |
| Solana | 最初の署名者(fee payer)が SOL で払う。送信者と分けられる | アプリが払えば不要 |
| Sui | ステーブルコインの送金はネットワーク手数料 0 ドル | 不要 |
出典: ethereum.org「Account abstraction」、Solana Docs「Transactions」、Sui「Sui launches gasless stablecoin transfers」
一方 Sui は、送金そのものから手数料を無くしました。Sui は 2026 年 5 月 20 日から、USDC を含むステーブルコインの送金をプロトコルの機能として 0 ドルにしています。 Sui の説明では、Address Balances という仕組みで実現した「プロトコル側の機能」です。アプリが肩代わりする方式とは作りが違う、というのが私の理解です。Solana は手数料の支払者(fee payer)を送信者と分けられる仕組みが最初からあり、アプリが SOL で払えば利用者は USDC だけ持っていれば済みます。
公平に言うと、Solana の fee payer も「誰かが SOL で払う」点では EVM の paymaster と同じです。違いは、プロトコルに最初から組み込まれているか、コントラクトの層で後から足すかにあります。消費者向けのアプリを 8,200 万台に配る立場なら、後から足す層が 1 つ少ないほうを選びたくなる、というのが私の読みです。

出典: Sui(2026-10-09 時点の画面)
考えられる理由 3:L1 を待たずに確定する
Ethereum の L1 でブロックが確定するまでは約 15 分です。L2 の Base は画面上の確認こそ速いものの、最終的な確定は L1 を待つ構造になっています。Solana は約 12.8 秒、Sui は約 0.4 秒。数秒から十数秒で確定する世界と、15 分待つ世界の差です。ウォレットのアプリが「送金完了」と出して、その裏で 15 分の確定待ちがあるのは、消費者向けの体験としては落ち着きません。
ただし、保管を担う Bastion がどの時点を「完了」と扱うかは公開されていません。確定の速さが決め手だったと Samsung 側が言ったわけでもないので、ここは推測のままです。
考えられる理由 4:Coinbase が副カストディアンなのに Base ではない
Base は Coinbase が運営する L2 で、USDC 決済の実績もあります。Shopify は 2025 年 6 月に Coinbase・Stripe と組んで、Base 上の USDC 決済を始めると発表しました(Coinbase ブログ)。その Coinbase が保管に入っているのに、Base が採用されていません。
保管側の都合でチェーンが決まったなら、Base が入るのが自然です。入っていないということは、チェーンは保管側ではなく、利用者の体験(ガス用トークンが要らない・すぐ確定する)で選ばれた可能性があると読んでいます。もちろん、別の説明もありえます。Samsung NEXT と Mysten Labs の出資関係や、財団側の商業的な提携が効いた可能性は、公開情報では否定も肯定もできません。Coinbase Prime が Solana の資産も預かれる以上、「Coinbase だから Base のはず」という前提そのものも、思ったより弱いです。
決済での実績という面では、Solana に一日の長があります。Visa は 2025 年 12 月に、Solana 上の USDC で米国の決済精算を始めています(Visa 公式)。
EVM が終わったわけではない
USDC の残高は Ethereum だけで約 454 億ドルと、全体の 6 割を占めます。今回の選定は「消費者向けの送金アプリに向くのはどれか」という話で、EVM の価値が下がった話ではありません。
日本の読者にとって何が変わるのか
正直に言うと、今日明日で変わることはありません。Samsung Wallet 自体は 2025 年 2 月 25 日に日本でも始まると発表されていて、開始時点で PayPay や V ポイントに対応するとされていました(ITmedia・2025 年 1 月 23 日)。ただ、今回の USDC 送金は米国限定で、日本での提供時期は出ていません。
日本で USDC を扱える登録業者は、2026 年 8 月 27 日時点で 2 社です。SBI VC トレードが 2025 年 3 月 4 日に国内で初めて登録を受け、コインチェックが 2026 年 8 月 27 日に続きました(金融庁「電子決済手段等取引業者登録一覧」)。どのチェーンの USDC を扱うかは各社の案内で変わるので、Solana 版や Sui 版が欲しいときは、先に確かめたほうが安全です。制度としては、2023 年 6 月 1 日に始まった電子決済手段等取引業の仕組みの中で、USDC は「電子決済手段」として扱われます(金融庁)。日本の法律の上では暗号資産ではない、というのは意外と知られていない点です。
それでも、このニュースが日本の読者に効く場面はあります。銀行の外国送金の手数料と比べると、USDC 送金が何を変えようとしているかが見えるからです。
| 三菱UFJダイレクトの外国送金 | 手数料 |
|---|---|
| 当行本支店・現地法人あて | 2,500 円 |
| 他行あて | 3,000 円 |
| 円建ての場合に加わる取扱手数料 | 送金額の 1/20%(最低 2,500 円) |
出典: 三菱UFJ銀行「手数料一覧」(2026 年 10 月 9 日取得)
1 万円を円建てで他行へ送ると、3,000 円に取扱手数料の最低 2,500 円が加わって 5,500 円です。その世界と、ウォレット同士なら 0 ドルの世界が並んでいるわけです。ただし条件は同じではありません。Samsung でも銀行口座宛ては有料で、USDC を手に入れる費用や売買の差も別にかかります。比べる相手は「外部ウォレット宛て」に限った話だと思って読んでください。海外の友人との立て替えを USDC で済ませる手順は、別の記事にまとめてあります。
あわせて読みたいUSDC で割り勘する方法|送金から精算までの手順
ニュースの読み方のコツ
「手数料無料」と見たら、主語と送金先を確かめる。「〜を採用」と見たら、採用した側が理由を言っているかを確かめる。この 2 つで、見出しの熱に引っぱられずに済みます。
よくある質問
Q. Samsung Wallet の USDC 送金は日本で使えますか?
使えません。2026 年 10 月の開始時点では米国居住者限定で、日本での提供時期は発表されていないからです。Samsung のリリースは、各国の規制の進展に合わせて他の市場へ広げる可能性がある、と書くにとどめています。
Q. 手数料は本当に無料ですか?
外部ウォレット宛ての USDC 送金に限れば、Samsung は手数料を取りません。銀行口座宛ての送金は有料で、送金先の国と金額によって変わり、アプリに表示されます。受け取り側のウォレットや取引所が別に手数料を取ることもあります。
Q. Circle は今回の発表に関わっていますか?
Samsung のリリースに Circle の名前はありません。保管と送金の仕組みは Bastion、副カストディアンは Coinbase です。USDC の発行元は Circle ですが、今回のパートナーとしては発表されていないのが事実です。
Q. なぜ Ethereum や Base ではないのですか?
Samsung は理由を語っていません。公開されている数字からの推測では、利用者がガス用トークンを持たずに送れることと、L1 の確定を待たずに数秒から十数秒で確定することが、EVM 系との違いとして大きいと考えられます。手数料の安さは、2026 年 10 月 8〜9 日の値では大きな差になりにくい状況でした。
まとめ
次に同じ種類のニュースを見たら、原文を 1 本だけ開いてみてください。今回は、対象国も手数料の主語も採用の理由も、見出しから受ける印象と違っていました。
もう一歩先を見るなら、2 つの動きが手がかりになります。Solana は Alpenglow という改良で、確定を約 0.15 秒まで縮めることを目指しています。メインネットでの有効化日は、2026 年 10 月時点では未定です(Solana 公式)。Sui のガスレス送金が、USDC 以外のステーブルコインにどこまで広がるかも見どころです。チェーンの勝ち負けより「利用者が USDC 以外を持たずに済むか」という一点で見ていくと、ニュースの読み方がすこし楽になるはずです。
本記事は 2026 年 10 月 9 日時点の公表情報にもとづく一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の投資判断や法的判断を行うものではありません。特定のサービスや銘柄の利用・購入を勧めるものでもありません。暗号資産・ステーブルコインの取り扱いは各社の最新の公式情報を確認し、不安がある場合は専門家にご相談ください。


