介護費のきょうだい分担|法的根拠・費用目安・3つの分け方
目次
親の介護が始まると、真っ先にぶつかるのが「お金の問題」です。誰がいくら出すのか、きょうだい間で話し合うきっかけがないまま、近くに住むひとりに負担が集中しがちです。この記事では、法律の根拠、最新の費用データ、具体的な分担パターンの3点をまとめました。
きょうだい全員に扶養義務がある
民法877条1項は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めており、親の介護費用を負担する法的義務は子ども全員に等しく発生します(e-Gov法令検索)。長男だから、同居しているからという理由で特定の子だけが義務を負うわけではありません。
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
> > 出典: 民法877条1項(e-Gov法令検索)
注意
「長男が面倒を見るもの」「近くにいる子に任せればいい」という慣習は、法律上の根拠がありません。費用を負担しないきょうだいがいる場合、家庭裁判所に扶養請求の調停を申し立てることもできます。
ただし、子の義務は「生活扶助義務」と呼ばれる範囲にとどまります。自分の生活水準を犠牲にしてまで親を支える必要はなく、余力がある範囲で援助するレベルです。ここが「親が未成年の子を扶養する義務(生活保持義務)」と異なる点で、自分の家計を壊してまで負担する義務までは負いません。
介護費用はいくらかかる?最新データで把握する
生命保険文化センターの2024年度調査(2025年1月発行)によると、介護にかかる一時費用の平均は47.2万円、月額費用の全体平均は9.0万円です(生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」)。在宅か施設かで月額に2倍以上の差が出るため、早い段階でどちらを選ぶか方針を決めておくと、分担の話し合いがスムーズになります。
| 費目 | 金額 |
|---|---|
| 一時費用(住宅改修・介護ベッド等) | 平均47.2万円 |
| 月額費用(全体平均) | 9.0万円 |
| 月額費用(在宅) | 5.3万円 |
| 月額費用(施設) | 13.8万円 |
| 介護期間 | 平均55.0カ月(4年7カ月) |
出典: 生命保険文化センター 2024年度「生命保険に関する全国実態調査」
出典: 生命保険文化センター 2024年度調査
施設で月13.8万円が平均55.0カ月続くと仮定すると、月額だけで総額約759万円。一時費用を加えれば800万円を超える計算です。けっこう大きな金額ですが、次のセクションで説明するとおり、まず親自身の年金・貯蓄で賄い、不足分だけをきょうだいで割るのが基本的な考え方です。
分担の3パターンと計算例
介護費用の分担はまず親自身の年金・貯蓄から充て、不足分だけを子どもたちで分けるのが大原則です。親の年金で月8万円をカバーできる場合、施設費用13.8万円との差額5.8万円(ここでは計算しやすく6万円とします)がきょうだいで分担する金額の目安になります。
以下は、月6万円の不足額をきょうだい3人で分担する計算例です。
| パターン | 兄(年収600万) | 姉(年収450万・近居で実務) | 弟(年収300万) |
|---|---|---|---|
| 均等割 | 2.0万円 | 2.0万円 | 2.0万円 |
| 収入比例 | 2.7万円 | 2.0万円 | 1.3万円 |
| 実務考慮型 | 3.0万円 | 0円(通院付き添い等の労務で貢献) | 3.0万円 |
均等割
3人で単純に3等分する方式です。計算がシンプルで、説得力もあります。ただし収入差が大きいと、低収入のきょうだいに重くのしかかります。
収入比例
年収に応じて負担額を変える方式です。兄600万、姉450万、弟300万なら比率は4:3:2。6万円を9等分すると、1単位あたり約6,700円になります。収入が変わったら比率を見直す手間はありますが、たいへんな思いをする人が偏りにくい方法です。
同棲やルームシェアの生活費分担でも収入比の考え方は使えます。同じ発想の家計管理については同棲カップルの生活費分担を3パターンで解説した記事も参考にしてください。
実務考慮型
近居の姉が通院の付き添いや日常的な見守りを担っている場合、その労務を金銭的な貢献として評価する方式です。この方式では、お金を出す人と体を動かす人の役割を明確に分けることで、「自分だけ損をしている」という不満を減らせます。
迷ったら、まず均等割で始めて、実態に合わなくなったタイミングで収入比例や実務考慮型に切り替えるのが現実的です。
まず親のお金、次に公的制度、子の負担は最後
介護費は「親の年金・貯蓄 → 公的制度 → きょうだいの不足分負担」の順で考えましょう。子が最初から全額を背負う必要はありません。
負担を減らす3つの公的制度
介護費用の自己負担を軽減できる公的制度は複数あります。厚生労働省の高額介護サービス費制度では、所得に応じて月額の自己負担上限が設定されており、超過分は申請すれば払い戻されます(厚生労働省資料、令和3年8月改定)。こうした制度を使いきってから、不足分をきょうだいで分担するのが負担を最小限にするコツです。
高額介護サービス費
介護保険の自己負担額に月額上限を設ける制度です。上限を超えた分は申請により払い戻されます。
| 所得区分 | 月額上限 |
|---|---|
| 課税所得690万円以上 | 140,100円 |
| 課税所得380万〜690万円 | 93,000円 |
| 課税所得380万円未満 | 44,400円 |
| 住民税非課税 | 24,600円 |
| 年金収入80万円以下等 | 15,000円 |
出典: 厚生労働省「高額介護サービス費」(令和3年8月改定)
たとえば親が住民税非課税の場合、月の上限は24,600円。施設の月額13.8万円のうち介護保険対象分の自己負担がこの上限に収まるなら、実際の持ち出しはぐっと抑えられます。めんどうに感じるかもしれませんが、申請しないと戻ってこないお金なので、ここは忘れずに手続きしてください。
医療費控除
介護施設の費用は、確定申告で医療費控除の対象になる場合があります。特別養護老人ホーム(特養)では自己負担額の1/2相当、介護老人保健施設(老健)では自己負担の全額が控除対象です(国税庁 No.1125 / No.1127)。親自身の確定申告で使うのが基本ですが、子が費用を負担している場合は子の確定申告でも控除を受けられます。
世帯分離
親と同居しているきょうだいがいる場合、住民票上の世帯を分ける「世帯分離」を行うと、親の世帯の所得が下がり、高額介護サービス費の上限区分が下がることがあります。結果として自己負担額が減る可能性がありますが、国民健康保険料が変わるなどの影響もあるため、事前に自治体の窓口で試算してもらうのがおすすめです。
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よくある質問
Q. きょうだいが介護費の分担を拒否したらどうすればいい?
まずは話し合いで解決を目指してください。民法877条の扶養義務は子ども全員に等しくかかるため、拒否に法的根拠はありません。話し合いで折り合いがつかない場合は、家庭裁判所に扶養請求の調停を申し立てることができます。調停では収入や資産、生活状況を考慮して負担額が決められます。
Q. 介護費用は相続のときに考慮される?
考慮される制度があります。被相続人の介護に特別の貢献をした相続人は、「寄与分」として遺産の取り分を増やすよう主張できます(民法904条の2)。2019年の民法改正では相続人以外の親族(たとえば長男の配偶者)にも「特別寄与料」の請求権が認められました。ただし、寄与分の立証には介護記録や支出の領収書が必要です。日頃から記録を残しておくことが、あとから自分を守る手段になります。
Q. 介護の立替記録はどうやって残す?
スマホの家計簿アプリや共有スプレッドシートで、日付・金額・内容を記録するのがいちばん手軽です。領収書やレシートの写真を一緒に保存しておけば、税務上の控除申請にもそのまま使えます。割り勘アプリで介護費を管理しているきょうだいもいます。きょうだい全員がリアルタイムで残高を確認できると、「自分だけ多く払っている」という不満が生まれにくくなります。お金の貸し借りの記録のコツは友人間のお金トラブルを防ぐルールでも紹介しています。
まとめ
介護費の分担で最初にやるべきことは、法律上の義務を全員で確認し、費用の全体像を数字で共有することです。親の年金・貯蓄でどこまで賄えるか、公的制度でどれだけ圧縮できるかを先に整理すれば、きょうだいが実際に負担する金額は想像よりずっと小さくなることもあります。
介護は長く続きます。総務省の2022年の調査では、介護を理由に離職した人は年間10.6万人にのぼり、そのうち8.3万人が離職後に無業状態です(総務省「令和4年就業構造基本調査」)。自分の生活を壊さない範囲で、分担のルールを決めておくことが、きょうだい全員にとっての安全網になります。
POINT
分担の話し合いは「誰がいくら出すか」の前に「親の手元にいくらあるか」から始めましょう。順番を間違えると、必要以上の負担を抱え込みます。
本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務・法的判断を行うものではありません。具体的な取り扱いに不安がある場合は、税務署・税理士・弁護士にご相談ください。


